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リドリー・スコットが挑む終末世界×ロードムービー 『ドッグ・スター:最後の希望』試写評

〈ドッグ・スター:最後の希望〉
〈ドッグ・スター:最後の希望〉

リドリー・スコット監督の新作『ドッグ・スター:最後の希望』(以下『ドッグ・スター』)は8月26日に公開される。8月25日の報道向け試写で本作を見た。ウイルスで文明が崩壊した2035年を舞台に、一人の男の旅を描くポスト・アポカリプス映画だ。ピーター・ヘラーの小説 「ドッグ・スター」を原作に、満88歳にしてなお現場を率いるリドリー・スコットがカメラを向けた。


〈ドッグ・スター:最後の希望〉 ヒック(ジェイコブ・エローディ)
〈ドッグ・スター:最後の希望〉 ヒック(ジェイコブ・エローディ)

ヒック(ジェイコブ・エローディ)は隣人のバングリー(ジョシュ・ブローリン)、飼い犬ジャスパーとともにウイルスで文明が崩壊した世界を生きている。小型機を操り物資を調達し、侵入者を偵察しながら日常を送るヒックはある日、「グランド・ジャンクション」から届いた不可解な無線を受け取る。誰が送ったのか、本当に人が送っているのかと疑念は尽きないが、ヒックはその無線に導かれて旅に出る。

〈ドッグ・スター〉は、何らかの出来事で文明が消失した、いわゆるポスト・アポカリプスというジャンルの枠組みを持つ。人々は生き残るために絶えず移動し、自らを守らねばならない。それでも〈ドッグ・スター〉は、これまでジャンル映画が積み上げてきたポスト・アポカリプスの典型的なイメージを分解する。なんとか集団を作り代替の共同体を築こうとする作品群とは異なり、本作のヒックは周囲の人物に気を配りつつもジャスパー以外とは深い関係を結ばない。だからこそ映画の前半は、ジャンル作品では想像しにくい牧歌的な風景が連続する。もちろん廃墟となった都市も登場するが、小型機であちこちを巡るヒックが目にする光景は、ジャンル映画というよりむしろ自然ドキュメンタリーを見ているかのように清々しい。

本作ではポスト・アポカリプスの設定はあくまで土台で、物語の軸はむしろロードムービーにある。ヒックがある出来事を経験し、バングリーを離れてグランド・ジャンクションへ向かう過程で遭遇する出来事が映画の核に近い。小型機の故障で不時着したヒックが、農場を拠点に暮らす父娘ポップス(ガイ・ピアース)、シマ(マーガレット・クアリー)と出会って過ごす時間が、主人公ヒックの心情と変化を描く上で最も大きな役割を果たす。この場面でヒックは、常に生存を最優先にしてきたバングリーが満たせなかった情感を少しずつ埋め、自分自身を見つめ直す。そしてその心が原動力となって再びグランド・ジャンクションへ向かう準備をする。

〈ドッグ・スター:最後の希望〉
〈ドッグ・スター:最後の希望〉
(左から)〈ドッグ・スター:最後の希望〉 ポップス(ガイ・ピアース)、シマ(マーガレット・クアリー)
〈ドッグ・スター:最後の希望〉
〈ドッグ・スター:最後の希望〉

〈ドッグ・スター〉は、ポスト・アポカリプスというジャンルがもたらす爽快感よりも、その内にある、文明が崩れてもなお生き延びねばならない人間を中心に世界を再編する。それを形にする映像美と、自然に観客を没入させ場面の情緒を高める音楽、俳優たちの好演が伴い、非文明世界の静謐さを感じさせる。同時に映画の随所には、この作品がアメリカの歴史や欲望を寓意していることも読み取れる。牧歌的な風景はアメリカ人が長年享受してきた「家」のイメージを、襲撃者たちの多様な姿は各種大衆文化における時代を象徴する共同体の姿を想起させる。とりわけグランド・ジャンクションの描写で際立つ。単に人間同士の関係や希望だけを伝えるのではなく、現代に至るまで多くの人々が欲望しつつも成し得なかったものを代替的に織り込んだリドリー・スコットの野心が読み取れる。

〈ドッグ・スター:最後の希望〉
〈ドッグ・スター:最後の希望〉

しかし〈ドッグ・スター〉が優れた映画であるか、あるいは期待を裏切りつつも満足させる映画であるかには疑問符が残る。全体として叙情的な雰囲気や牧歌的な風景で差別化を図ろうとするが、その呼吸が観客にはあまりに遅い。密度の高い説明の代わりに余白を選び、ヒックの孤独や喪失感を示そうとするが、それを踏まえても映画のエンジンがかかるのが遅すぎる。序盤に力を注ぎすぎたために後半は過度にスピード感が増し、人物に手をかけた分だけ観客がカタルシスを得る余裕がない。とはいえ物語が殊更に切実かというとそうでもない。ヒックの一人称視点で内面を深く描き、ポスト・アポカリプスにおける人間性の描写で高く評価された原作小説の長所は映像化で活かし切れておらず、ヒューマンドラマとポスト・アポカリプスの典型的な枠組みをそのまま持ち込んだために物足りなさが残る。もちろん大胆なアクションやチェイス場面が瞬間的に物語の陳腐さを吹き飛ばす場面はあるが、全体としてジャンル映画を期待して来た観客を満足させるほどではないだろう。

〈ドッグ・スター:最後の希望〉
〈ドッグ・スター:最後の希望〉

結果として〈ドッグ・スター〉は、ポスト・アポカリプスとロードムービーを組み合わせた物語として、両ジャンルの持ち味を十分に生かし切れていない。前者としてはあまりに叙情的であり、後者としては旅路の中での人物変化が劇的に響かない。もちろんリドリー・スコットがメガホンを取っただけに卓越した映像美と緊張感を生む演出は水準を明らかに上回る。しかし〈ドッグ・スター〉を観に来た観客は、おそらく「リドリー・スコット」という名前に多くを期待している可能性が高い。その期待を満たすにはやや物足りない印象が拭えない。〈ドッグ・スター〉は8月26日に公開される。

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